生きた麹菌を含む沖縄の熟成珍味
豆腐餻とは
豆腐餻(とうふよう)は、室温で陰干し乾燥させた豆腐を泡盛を含むもろみ(漬け汁)に漬け込んで熟成させたもので、沖縄独自の発酵食品です。高級なチーズのような滑らかさと、くせのある風味が特徴です。琉球王朝時代には、高貴な人々の間で病後の滋養食としても重宝されたといわれています。原材料には、普通の豆腐よりも水分が少ない島豆腐が使われます。小さいからといって、1口でパクっと食べるのはマナー違反で、爪楊枝などで少しずつ削り取るように風味を味わうのが流儀です。泡盛のロックを飲みながら、豆腐餻をつまみにすると幸せな気分になります。
豆腐餻をつくり出す微生物たち
豆腐餻の製造に関わる主な微生物は、麹菌(Aspergillus oryzae)です。発酵の過程で、島豆腐のタンパク質が麹菌の酵素で分解を受けて、旨味をもつペプチドや遊離アミノ酸が生成します(1) Aspergillus oryzaeは、ニホンコウジカビのことで、味噌や醤油の発酵に使われています。豆腐餻の旨味成分をつくり出す働きが、味噌や醤油と同じ微生物というのは面白いですね。
一方、いわゆる紅麹(ベニコウジ)は豆腐餻に特徴的な紅色色素とフレーバーの生成に寄与します。島豆腐から旨味成分をつくり出す菌は紅麹だと思ってましたが、紅麹は紅い色素や独特の香りをつくる役割が主なのです。
そして泡盛の働きは、その消毒効果で島豆腐の熟成中に他の雑菌がつくことを防いでるようです。島豆腐を原料に麹菌と泡盛の連携プレーで発酵熟成した美味しい豆腐餻が出来るのは、まさに沖縄の知恵と文化ですね!
豆腐餻の健康機能
発酵食品である豆腐餻には、様々な生理活性物質が含まれています。高血圧を自然発症するラットに豆腐餻の凍結乾燥粉末を食べさせると、血圧上昇を抑制する効果が確認されており、島豆腐のタンパク質から発酵分解して出来たペプチド(アミノ酸が数個つながったもの)が血圧を下げる成分であるようです(2)。また、琉球大学の研究では、人為的にインフルエンザウイルスに感染させたマウスに対し、豆腐餻の抽出エキスを与えると感染に伴う体重減少や生存期間が延長することが示され、健康増進効果が明らかになりました(3)。豆腐餻の中のどんな成分が延命効果を発揮しているかは不明ですが、最新の研究では麹菌自体を食べることにより、腸内の免疫が活性化することが分かっており、麹菌を多く含む豆腐餻、味噌、漬物などを食べることは日本人の長寿と関係しているのかもしれません。
(1)安田ら:日本食品興業学会誌 第41巻 第3号 p-184-190 (1994)
(2)Kuba, M.:J Health Sci. 50, 670-673 (2004)
(3)Sakudo, A:BIOMEDICAL REPORTS 1: 80-84 (2013)